世間に流布するエピソードは当然、難病が治癒したり、延命したりしたものばかりである。これは、代替医療の効果を示す根拠になるだろうか?もちろんノーだ。宝くじの当選者ばかりを紹介して、「宝くじを買うと億万長者になれる」と言っているのと同じである。大事なのは確率であり、成功例だけをいくら並べても意味はないのだ。
下に紹介するサイトの書き方はもっと辛辣だ。
http://www5.ocn.ne.jp/~kmatsu/kenshoku/kenshoku01.htm
藁を持つかむという言葉がありますが、これらの治療は、藁であるどころか
あなたから財産を奪ったうえで水中に沈めるものかもしれません!
たまたま某所で、この「水中に沈める」実践者を発見した。医師から服薬を指導されている重篤な慢性疾患の患者に、「すぐに服薬をやめろさもないと廃人になる自分の仲間が関与すれば別だが」、と言って恫喝するのである。
この人物は他にも、千島学説を信じるようなことを言い、抗がん剤を否定し、高血圧やコレステロールは気にしなくても良い、などと発言している。こんな妄想を、整体だとか代替療法だとか言って世間に流布することは、犯罪とさえ言える。もちろん上にも書いたように、本人が犬死にする分には全くかまわない。だが、関与した患者が亡くなったり、重大な障害を負ってしまったら、どうするのであろうか。じつに無責任である。
正当な医療を否定し、無責任な言説を振りまくことの重大さが分からない方がいらっしゃったら、以下の記事を読んでいただきたい。トンデモは人を殺すのだ(お産はもちろん病気ではないが、専門の医師もいる重要な医療行為である)。
http://khon.at.infoseek.co.jp/kiji/29.html
育児文化研究所(大阪府箕面市)の指導に従った出産
夫婦のみで「24時間ぶろ」で水中出産したが、新生児は水中に繁殖していたレジオネラ菌に感染、8日目に死亡した。
http://www.jaog.or.jp/JAPANESE/MEMBERS/TANPA/H12/000403.htm
「育児文化研究所」(本部大阪箕面市)という健康診査の不受診や自宅等における医師又は助産婦が介助しない分娩を推奨する団体に通所していた妊産婦が自宅の循環式浴槽(いわゆる24時間風呂)において水中分娩し、出生児がレジオネラ菌が原因と疑われる肺膿症で死亡する事例があることが愛知県から報告された。
悲しい事故である。普通の産科医にかかって、普通の出産をしていれば、死なずにすんだかもしれないのである。もうひとつご紹介しようか。お産に関する恐怖のトンデモと言えば、今ではこちらの方が有名かもしれない。「吉村医院での幸せなお産」である。
付け加えると、育児文化研究所と吉村医院には、どういう偶然なのか、両者とも新興宗教風のHPがある。
しかし提唱者である江本勝は、水の実験をする際に、じつにいいかげんな検証をしているのである。「江本勝の日記ウェブサイト」を読むと、50個ほどのシャーレにサンプルを作り、言葉に合った結晶を江本勝の主観で選んでいる、とある。ここには科学実験の基本である客観性がない。
観測する人間は生のデータを収集するのではなく、自分が欲しいデータを選んでいるのである。ダブルブラインドテストなどという概念もまったくない。この事象を疑似科学にしている原因は、江本勝の非科学的な検証にあると言っていいだろう。
また江本勝自身は、水の結晶を「ポエムだ思う。科学だとは思っていない」と言っている。つまり、自然科学的な実験ではなく、写真付きのフィクションだと云うことだ。結晶写真は、ある種の造形物であろう。
資料:「江本勝の日記ウェブサイト」より引用
http://www.masaru-emoto.net/newemoto2/index200712.html
1.実験方法について
水はプラスチック製のシャーレに0.5cc程滴下させて、フリーザーにて−25℃で氷結させます。
氷結したサンプルは半円形となり、結晶体はその半円形の頂上部分にあります。 観察は大型冷蔵室で行います。(その中にフリーザーと顕微鏡があります。)
使用している顕微鏡は金属光学顕微鏡で、光は上からサンプルへ落射させます。観察倍率は100倍〜200倍です。実物の結晶は0.5mm〜0.7mm程度です。
2.言葉の実験について 言葉を何回か水にかけるのではなく、文字をビンに水をいれてサンプルを作成します。
1つの水のサンプルから複数(50〜100)の氷結サンプルを作り観察します。
写真も複数枚撮影されますが、その中で代表的な1枚は江本所長によって選ばれます。つまり、この言葉にはこの結晶が相応しいという江本所長の主観による判断なされるわけです。
実験方法については文章で説明すれば上記1のようになりますが、言葉が水に与える影響を検証するという精妙なレベルの実験を行うには少なからず経験が必要になりますので、時間をかけて行う必要があると思われます。
ここに、野阿 梓というSF作家の、「ジャパネスクSF試論(初出:「ユリイカ」ポスト・サイバーパンク特集 1993.12)」と云う文章がある。著者本人の感じた、戦慄の記憶である。
http://noah1984.hp.infoseek.co.jp/sf.htm
(前略)
思い返しても慄然とするのは、八九年一月七日を終点とする、数百日にわたって日本列島をとらえた不気味な狂騒である。
あの夜、筆者はある地方都市のジャズ喫茶にいた。いっさいの<歌舞音曲>が禁止されて、当日に予定されていたジャズ・フェスティヴァルがお流れとなり、鬱屈した客やミュ−ジシャンたちがその店に集ったのである。ごく自然にジャム・セッションがはじまり、<非国民>どもの祝祭は明け方までつづいた。われわれはそのようにして<昭和>を葬送した。しかし、その夜、店のそとの繁華街は人影も紅燈もたえ、暗い冷たい静寂につつまれていたのだ。その闇と沈黙の深さは、作家をおびえさせるに十分だった。
数百日にわたる狂騒。マスコミの<自粛>と規制。音を消されたCF。全国にミカドの快癒を祈願する<記帳所>がもうけられ、セ−ラ−服の少女から前衛党の党首までが列をつくった。その呪術的光景。しかし、あれが本当の日本の姿なのだ。近代的な社会システムや機械文明の被膜をいちまい剥いだその下に現れる、民族的精神の古層。それがあの狂騒の正体だったはずである。そのプレッシャ−のなかで、筆者はついに作中の現時点で在位する天皇のことを、「あの方」としか表記できなかった。この気持ちは、書き手にしか判らないかも知れない。
ここでの記述は僕(キンシャチ)の記憶とも合致する。「音を消されたCF」とはおそらく井上陽水の「みなさんお元気ですか」であろう。
http://jp.youtube.com/watch?v=1Aychw09G1E
音が消されたバージョン。
http://jp.youtube.com/watch?v=qdxD7uY0nlQ&feature=related
また「自粛」なる、当時は聞き慣れない言葉が流行語ともなった。天皇の具合が悪いと言って、各種イベントが中止に追い込まれたのだ。せっかく準備したイベントが中止になったら、経済的損失を被る方もいるだろうし、関係者にも迷惑がかかる。だいたいイベントを中止したからと言って、天皇の具合が良くなるわけではないのだ。全く因果関係のない事象である。
ミカドの快癒を祈願して記帳した前衛党の党首とは、土井たか子だろう。
http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/rn/59/rn1989-313.html
八八年九月一九日の天皇の発病と九月二四日の病状悪化によって、さまざまな行事の「自粛」や病気快癒の「決議」、「記帳」などの動きが強まり、これを契機に昭和天皇の戦争責任をめぐる論議も高まった。このようななかで、社会党は土井委員長が宮中に参内して記帳し、戦争責任については、責任ありとする土井委員長の憲法学者としての個人的見解と、基本的にはないとする『社会新報』社説の公式見解を使い分けるなど、複雑な対応を示した。
そこへ行くと、共産党はさすがである。
http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/rn/59/rn1989-339.html
八八年九月一九日に天皇が吐血して重体におちいり、以後死去する八九年一月七日まで、異様な「自粛」「記帳」運動が展開された。共産党は、天皇の美化、元首化をはかるものであり、憲法に規定された象徴天皇制の逸脱と国民主権原則への違反であるとして、このような動きを批判するとともに、機関紙などで天皇の戦争責任を追及する論陣をはり、地方議会での「快癒決議」にも反対した。
議会で快癒決議などを採択したからといって、天皇の病状が回復しないのは上にも書いた通りであり、地方議会の仕事は地方自治である。議員の目は市民に向けられるべきだ。
さて最近これと同じようなことが起こったがご記憶であろうか。
"It's a boy."
皇孫悠仁氏の誕生である。
http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe6800/news/20060907i106.htm
秋篠宮妃紀子さまのご出産を受け、全国の寺社や自治体庁舎に続々と記帳所が設置されている。
一方で宮内庁は、宮家にお子さまが誕生した際の慣例として一般向けの記帳所は設けておらず、「どこで記帳すればいいのか」という問い合わせが同庁に相次いでいる。
http://www.pref.kanagawa.jp/gikai/pg/kaketu/kaketu0609.htm
天皇皇后両陛下に奉呈する賀詞
このたびの皇孫悠仁親王殿下御誕生は県民ひとしくまことに慶びに堪えないところであります
ここに神奈川県議会は悠仁親王殿下の御命名をお祝い申し上げ神奈川県民とともに謹んで慶賀の誠を表しあわせて皇室の御繁栄をお祈り申し上げます
平成18年9月14日
神奈川県議会
(他多数あり)
もちろん似ているとはいっても、誕生と死亡ではだいぶ違う。いつ死ぬか今死ぬかと言ったハラハラ感は当然ないし、プチ狂騒というくらいではある。が、マスコミに踊らされるにしろ、宮内庁をはじめとする権威のお達しにしろ、自ら踊るにしろ、結局踊るやつは踊るのだ。20年たっても、全く変わっていない。
ここにも見て取れるであろう「その呪術的光景」が。「近代的な社会システムや機械文明の被膜をいちまい剥いだその下に現れる、民族的精神の古層」が。そして天皇家を利用して国民の思想統合を目論む、亡霊のような疑似愛国者のかげが。





